片頭痛がよくわかる疾患ガイドページ
片頭痛は、ただの頭痛ではなく、激しい痛みと共に吐き気や光への過敏などの症状を伴う、深刻な神経系の障害です。この病状は日常生活に大きな影響を及ぼし、発作の間、患者は日常的な活動が困難になることも少なくありません。原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境的要因が複合的に作用すると考えられています。
本ガイドでは、片頭痛の基本的な知識、発生のメカニズム、対処法、予防策についてわかりやすく説明し、患者さんやその家族がこの疾患をより良く理解し、日々の生活を改善するための情報を提供します。
片頭痛(へんずつう)とは?
片頭痛は、反復する激しい頭痛を特徴とする神経系の障害です。頭痛は通常、頭の片側に感じられ、脈を打つような痛みが特徴で、数時間から数日間続くことがあります。光や音に敏感になったり、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。片頭痛には、前兆(視覚的な異常や手足のしびれを伴う状態)を伴うものと伴わないものの2種類があります。
片頭痛の正確な原因は未だ完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境的要因が関係していると考えられています。ホルモン変動、ストレス、特定の食品や飲料、睡眠不足などが引き金となることがあります。
治療には、発作の予防と痛みの管理が含まれます。予防的治療としては、ライフスタイルの変更、予防薬の服用があります。痛みの管理には、発作が始まった時に服用する薬が用いられます。また、リラクゼーション技法やバイオフィードバックなど、非薬物治療が効果的な場合もあります。
片頭痛は慢性的な状態であるため、患者さん自身が自分の状態をよく理解し、適切な管理を行うことが重要です。
頭の片側にズキズキと脈打つ痛みがおきる
痛みが出る部位 | 頭の片側(ときに両側)、こめかみから目にかけての辺り |
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症状の特徴 | ・脈打つようにズキズキと痛む ・痛みが4時間以上続く ・立ち上がれなくなって生活に支障をきたす ・吐き気や嘔吐を伴う ・光や音に強い不快感を覚える |
片頭痛では、脈打つようなズキズキとした痛みが、頭の片側または両側に発作的に起こります。発作は4時間以上持続して、72時間以内に治まるのが一般的です。
いったん片頭痛の発作が出ると、何もできなくなるほどの痛みに襲われることも多く、日常生活に支障をきたします。身体を動かすなどして頭の位置が移動すると、痛みが悪化するのも片頭痛の特徴です。痛みと同時に吐き気やおう吐を伴うことも多いです。
片頭痛を起こすと感覚が過敏になるため、身体活動や眩しさ、大きな音や臭いなどの刺激に強い不快感を感じる場合もあります。反対に暗い部屋で過ごし、眠っていると片頭痛が治まります。
発作の頻度は月に1~2度、あるいは週に1~2度と人それぞれです。また、症状の度合いも人によって異なります。吐き気や光への過敏性を伴わない発作もあります。また、加齢に伴い、片頭痛は軽くなる傾向にあります。
片頭痛には予兆と前兆がある
片頭痛は「前兆があるもの」と「前兆がないもの」に大別されます。片頭痛患者のおよそ25%が前兆を伴うとされています。前兆がない片頭痛でも「頭痛がおこりそう」といった漠然とした予兆が現れるケースが多いです。
予兆:疲労感や集中力低下など
予兆とは、もうすぐ発作が始まることを警告するような感覚のことです。体調に異変をきたすことで「なんとなく」頭痛の予感を覚えます。予兆としては、片頭痛がおきる数時間~1、2日前に以下のような症状が見られることがあります。
- 疲労感
- 集中力が続かない
- 首や肩のこり
- 食欲の低下もしくは増進
- 頻繁なあくび
- 音を異常にうるさく感じる
- 光を異常に眩しく感じる
これらの症状が最長で48時間ほど続きます。予兆の症状は漠然としていることが多いです。全く予兆が現れないことも少なくありません。
前兆:ギザギザした光が見えるなど
前兆とは、頭痛直前に現れる視覚障害などを指します。頭痛が始まった後に見られる場合や頭痛が始まっても症状が持続する場合もあります。前兆として現れる症状としては、以下が挙げられます。
- 目の前がチカチカする
- 視界にギザギザした光の波が現れる
- 盲点ができて視野が欠ける
- 身体の一部がチクチクする
- 言葉がうまく話せない
- 身体が脱力する
前兆は数分から1時間ほど続きます。前兆が生じても、軽度の片頭痛で済むか、頭痛がまったく生じないという場合もあります。
原因はストレスなどによる血管の拡張
片頭痛の詳しい原因については、いまだによく分かっていません。何らかの理由で脳にある血管が拡張することで、血管を取り巻く三叉神経が刺激されていると考えられています。三叉神経が刺激を受けると、脳に痛みを伝える物質が放出されて、片頭痛がおこるのです。
片頭痛は、他の人よりも神経系が敏感な人がなりやすいと言われています。性格的には完璧主義、努力家、神経質な人に多い傾向があるようです。遺伝性が強い病気であり、母親が片頭痛の場合、娘では70%、息子では30%の頻度で片頭痛になるとされています(父親の場合は、確率はそれぞれ約半分になる)。
片頭痛の発作は、以下のような行動や刺激によって引き起こされます。
- 精神的ストレスや肉体疲労
- ストレスからの解放
- 天候の変化
- 肩こり
- 睡眠不足
- 脱水
- 空腹
- 騒音
- アルコール
- 生理
片頭痛の引き金になるのは、急激な環境の変化です。変化には気温や天候だけでなく、精神的ストレスや肉体疲労も含まれます。強い不安を感じたり、急に激しい運動をしたりなど、あらゆる変化が頭痛を引き起こします。
特定の食べ物が片頭痛の誘因になることも
特定の食べ物が片頭痛の誘因となることもあります。個人差はありますが、以下の食べ物は片頭痛を引き起こすといわれています。
- 赤ワイン
- チョコレート
- ココア
- チーズ
- 柑橘類
- カフェイン(過剰摂取)
赤ワインに含まれるポリフェノールやヒスタミンは、血管を拡張させる働きによって頭痛を悪化させます。またチョコレートやチーズ、柑橘類に含まれるチラミンには、血管収縮作用がありますが、反動で血管を拡張させて頭痛の原因となります。
カフェインは1日あたり200mg以下の摂取に抑えれば、むしろ片頭痛の緩和に働くとの報告があります。コーヒー1杯(100ml)に含まれるカフェンの量は、およそ60mgです。1日あたりコーヒー3杯以上の摂取は、片頭痛の引き金になるため要注意です。
女性では月経が引き金になることもある
また、女性ホルモンであるエストロゲンは、片頭痛のきっかけになりやすいと考えられています。若い女性に片頭痛が多いのは、このためです。
片頭痛は、エストロゲンが急激に減少する際にも発生します。思春期の女性は、エストロゲン濃度が急激に変動するので、思春期の男性より片頭痛が生じやすいと考えられています。月経の前後や月経期間に片頭痛が生じる女性も多くいます。
エストロゲンの分泌が急激に減少すると、脳内のセロトニンやcGMPといった神経伝達物質のバランスが変化します。セロトニンとcGRPのバランスが崩れると、脳内の血管が拡張したり、三叉神経が炎症を起こしたりして、片頭痛が起こります。
主に治療に使われるのはトリプタン製剤
- 片頭痛の治療に有効な成分
- スマトリプタン
片頭痛の治療に使われるトリプタン系の片頭痛治療剤です。片頭痛に対して鎮痛効果があり、吐き気などの随伴症状も解消できます。 - ジクロフェナク
ジクロフェナクは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる強力な鎮痛剤です。軽症~中等度の片頭痛には、NSAIDsが第一選択されます。
- スマトリプタンが配合されている商品
- イミグラン
イミグランは、片頭痛の改善に有効な内服薬です。 片頭痛とそれに伴う吐き気や感覚過敏などの随伴症状を改善します。含有している有効成分はスマトリプタンで、国内初の片頭痛特効薬として効果が認められています。 - スミナット
スミナットは、片頭痛の特効薬・イミグランのジェネリック医薬品です。有効成分スマトリプタンコハク酸塩が頭痛を解消し、吐き気や感覚過敏などの随伴症状もまとめて改善します。 - ジクロフェナクが配合されている商品
- ボルタレン
ボルタレンは、あらゆる痛みの症状の緩和に用いられている鎮痛剤です。ドラッグストアなどでは市販されていない内服薬タイプの商品です。
片頭痛の特効薬ともいえるのが、トリプタン系と呼ばれる薬です。主に中度~重度の片頭痛に対して処方されます。
トリプタン製剤には痛みを抑えるだけでなく、吐き気や感覚過敏などの随伴症状を解消する効果も期待できます。片頭痛は腫れた血管が三叉神経を刺激することで生じます。トリプタン製剤は脳血管を収縮することで片頭痛の原因を抑制し、痛みを根本から消失させます。
トリプタン製剤の中でも、日本で最も早く発売されたのがスマトリプタンを配合した「イミグラン」です。イミグランは片頭痛に対する76~77%の有効性が認められています。痛みだけでなく、光や音への過敏、悪心などの随伴症状の改善も確認されています。
軽度の片頭痛にはNSAIDsが使われる
軽度の片頭痛には、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンといった鎮痛剤が用いられます。これらの鎮痛剤には、市販されている薬も含まれます。市販薬の中では、バファリンやロキソニン、イブなどが有名です。
NSAIDsなどの鎮痛剤には、痛みの原因である血管の拡張を抑える効果はありません。トリプタン製剤に比べると効果が限定的です。安全性が高く、小児や高齢者にも使いやすい利点がありますが使いすぎると「薬物乱用頭痛」を起こすリスクもあります。
予防には日常的な習慣の見直しが効果的
片頭痛は、日常的な習慣を見直して予防することで、発症リスクを下げることができます。普段の生活の中で注意するべきポイントとして、以下が挙げられます。
- チョコやチーズなどの食品を避ける
- アルコールを控える(特に赤ワイン)
- ストレスや疲労をためない
- 大きな音や光のある場所に行かない
- 強い日差しを避ける
- カフェインを摂りすぎない
- 寝不足や寝すぎを避ける
- 長時間のスマホやPCの使用を避ける
先述しましたが、チョコレートや赤ワインなどの特定の食品は片頭痛の誘因となるため控えましょう。どの食べ物によって片頭痛が生じるかは人それぞれ異なります。自分に照らし合わせて、何をした後(食べた後)に片頭痛になりやすいかをリストアップして対処するのがよいでしょう。
大きな音や光を避けることも大切です。片頭痛は、脳血管への刺激が原因で生じるケースが多いです。映画館やライブハウスなど、強い光や大きな音がする場所は避けましょう。日差しが強い日には、外出を控える、サングラスをかけるなどして対処しましょう。
寝不足は片頭痛を引き起こしますが、寝すぎるのもかえってよくありません。生活リズムを整えることが大切です。
またスマホやPCの使い過ぎは、睡眠の質を低下させます。さらに液晶の光に含まれるブルーライトが、片頭痛を悪化させるとの報告もあります。スマホやPCの長時間および就寝前の使用は避けましょう。
片頭痛の発生要因は、個人によって異なります。自身が片頭痛になる時はどんな時かを思い返して日常生活を改め、誘因リスクを減らしていくことで片頭痛を予防しましょう。発生頻度が多い時は、予防薬の服用も検討しましょう。